産業用ロボットエンジニアによる産業用ロボットの世界

産業用ロボットエンジニアがリアルな産業用ロボットの世界をお伝えします。

産業用ロボットビジネスはここがつらい!

産業用ロボットの世界の需要は近年伸びています。

 

この業界はこれからさらに伸びるとして注目されており、新規参入メーカーも乱立しています。

 

産業用ロボットの導入が進んでいるのは主に大手機械メーカー(特に自動車メーカー)で、中小企業や機械以外の業種にはまだ導入が進んでいないところが多いです。

 

すなわち、もっと市場規模は広がる可能性を秘めています。 

 

そんなモテモテの産業用ロボット業界ですが、今回はあえて産業用ロボットビジネスのつらいところ、難しいところを紹介します。

 

■  どんな使い方をされるかわからない

工作機械は穴あけ、切削、磨き、プレスなどひとつの工作機械に対して一つの目的が決まっているので、専用機と呼ばれます。

 

一方産業用ロボットは使う目的は千差万別。ロボットのさきっぽにつける「ツール」を変えれば、組み立て、溶接、ハンドリング、検査などの工場のモノづくりの現場はもちろん、照明、アトラクション、ゲームなどエンターテイメントとして使われたりすることもしばしば。

 

このような理由から産業用ロボットは汎用機と呼ばれます。

 

 この汎用性ゆえに産業用ロボットを売る側はかなり苦労します。

 

「どんな使い方をされるかわからない」ということは、すなわち、「どんな使い方をされても大丈夫な設計をしなくてはいけない」ということです。

 

つまり相当なロバスト性能が要求されます。

 

ところが開発者がテストをするにもユーザが使う条件をすべて行うことは現実不可能です。

 

実際に生産ラインを組んでみたら想定外の問題が起きて臨機応変に対応するということも・・・

 

■  なかなか新しいロボットに買い換えてくれない

 産業用ロボットの汎用性について説明をしましたが、この汎用性があるがゆえに一つのロボットで様々な工程に対応できます。

 

これはすなわち、工作機械のような専用機であれば生産ラインを立ち上げるたびに新しい機械を購入する必要があるのに、

 

プログラムとロボットのさきっぽにつける「ツール」を変えてしまえば、同じロボットを様々な工程で使いまわせるということです。

■  販売価格が安い

 冒頭で説明したとおり産業用ロボットは今まで主に大手機械メーカーがユーザ(お客さん)でした。

 

そのような大手企業はロボットを数千台というオーダで購入し、複数のメーカに合い見積もりをかけます。

 

そうなると産業用ロボットメーカー側としては一つの受注をとるかとらないかで天と地の差があるため相当値段を頑張ってきました。

 

その結果、同じ可搬重量のロボットが昔は1000万円以上の値段で売っていたのが、今では200万円という場合もあったり・・・

■  開発コストが高い

これまた産業用ロボットの汎用性のおかげですが、一つのロボットで様々なことができるようにするためにファンクション(機能)が膨大にあります。

 

例えば

スポット溶接機能、アーク溶接機能、パレタイズ機能、力制御、ハンド制御、2次元物体認識、3次元物体認識、協調制御、ラダー機能、データ収集機能、自動ツール重心設定機能、自動ツールイナーシャ設定機能、自動座標設定機能、コンベア同期機能...などなど

 

また産業用ロボットは周辺機器との通信が必要な場合がほとんどですので、さまざまな通信規格に対応させる必要もあります。

 

大量の機能を開発しなくては行けない訳ですから当然開発コストは高くなります。

 

 

ロボット展では紹介されない産業用ロボットのあたりまえ機能

初心者の方が産業用ロボットを知ろうとロボット展に行っても、基本機能は知ってる前提での展示ばかり。

 

今回はあえて最新機能ではなく、産業用ロボットの基本機能、あたりまえに付いている機能について紹介します。

 

■ ロボット言語

ロボットに対して、こっちに動きなさい!あっちで溶接しなさい!ここで待機!などの指示をつくるにはこの「ロボット言語」というプログラムを作成します。

 

基本中の基本のファンクションを紹介したいと思います。

  • MOVE :ロボットの位置を指定するファンクション
  • WAIT      : 指定した時間ロボットが停止
  • SET        : I/O信号をONする
  • RESET  : I/O信号をOFFする

 

 これらのファンクションを使うと例えば次のようなプログラムがかけます

 

1 MOVE  (X,Y,Z)       :  ロボットが指定した位置(X,Y,Z)に移動

2 WAIT (1)                  :  一秒待機

3 SET (1)                       : 1番の信号をON (ロボットハンドが閉じる)

4 MOVE (X2,Y2,Z2)   : ロボットが指定した位置(X2,Y2,Z2)に移動

5 RESET (1)                 :  1番の信号をOFF(ロボットハンドが開く)

 

上記プログラムで位置(X,Y,Z)にロボットが掴むものが置いてあれば、それを掴んで位置(X2,Y2,Z2)に運んで置くといったプログラムになります。

 

ただし注意が必要なのは上記のファンクションそのものが各ロボットメーカに実装されているとは限りません。

 

日本では動作プログラムの移植性を高めるためのプログラム言語 SLIMというものをベースにロボット言語を実装しているメーカが多いですが、各社独自のファンクション仕様になっています。

■   内回り機能 

下の図のように位置P1を開始点としてP3へ移動するプログラムを教示するとします。

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でも実際は次の図のように障害物があったとしましょう。この場合は例えば位置P2を回避ポイントとして教示してやればP3まで到達することができます。

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ところが、このような教示をするとP2でロボットは無駄に減速しなくてはなりません。

 

なぜならば、P2の位置で減速しないとロボットは正確にP2の位置を経由できないからです。

 

たとえば自動車で交差点を一切の減速なしに曲がることはほぼ不可能であるのと同じです。

 

もしP2の位置がロボットにとって重要な位置でない場合(ただ通過するだけ)は下の図のように内回り機能をつかって動作時間を短縮するのが一般的です。

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ただしあまりにも内回りしすぎると障害物にあたってしまうので、内回りのレベルを設定できるようになっています。

■    エンコーダー補正機能

ロボットのモーターにはエンコーダという部品がついています。

 

この部品はロボットのモーターが今どの位置にいるのかを測定するセンサーです。

 

この位置を正しく測定するためにはロボットの原点がゼロになるようにセンサーの値を補正してやる必要があります。

 

普通はロボットを購入した時には最初から設定されているのですが、コントローラーを別のものに変えた時やモーターを交換した時などには設定が必要になります。

 

使い方はロボットの各軸を原点位置(目印がロボットアームについています)に動かして、設定ボタンを押せば設定完了!

 

ちなみに、ロボットの軸に対して2つのエンコーダが搭載されているロボットは原点位置に動かすことも含めて全自動で補正できます。

 

■ 自動ツール重心設定機能

産業用ロボットは先っぽに何かしらの道具を付けて使用します。

 

例えば、ものをつかめるようなハンド、溶接する溶接ガン、バリ取り用のグラインダ、検査用のカメラなどなど。

 

それらの道具のことを「ツール」と呼びます。

 

ロボットにツールを取り付ける際に必ずやらなければならない作業がツールの重心と質量の設定です。

 

これを正しく設定してやらないと、ロボットの能力を最大限に引き出すことができません。

 

なぜならロボットは常にモーターにかける最適な電流を計算しているのですが、その計算には重心と質量が必要だからです。

 

ツールの重心と質量が事前にわかっていればその数値を設定する事も可能ですが、そもそも重心や質量が不明な時もありますし、数値を入力するにも座標の位置と向きを間違えないように設定しなければならないので、まあまあ面倒くさいです。

 

そんな時は自動ツール重心設定機能を使いましょう。

 

使い方は、ロボットにツールを取り付けて測定用プログラムを再生してやれば自動で設定完了!

産業用ロボットって他のロボットとなにがちがうの?

 様々な種類のロボットがある中で産業用ロボットは他のロボットとなにがちがうのか。

 

 あたりまえのことですが、産業用ロボットは工場で働き、ものづくりのお手伝いをすることを目的をして作られたロボットです。

 

その用途は搬送、溶接、組み立て、検査など様々。使う人の工夫次第で極論をいえばなんでもできます。

 

そんな産業用ロボットならではの他のロボットにはない特徴をまとめてみました。

 

■ 動作スピードがめちゃくちゃ速い!

 産業用ロボットは工場でのものづくりを行うロボット。

 

工場でのものづくりにとって大事なことの一つにスピードがあります。

 

とくにロボットのプログラムが一回動作する時間のことを業界では「サイクルタイム」と言って、この時間をすこしでも減らせ!とお客さんから厳しい要求を受けます。

 

なぜなら、ロボットが早く仕事をすることで製品を作る時間が短くなりコストが下がるからです。

 

その為に産業用ロボットメーカは少しでも速く動くロボットを開発するわけです。

 

ロボット展で実際に見たことがある人はお分かりかと思いますが、目にも止まらぬ速さとはまさにこのことです。

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ただ、最近は人と共存するロボットというのが流行りで、こいつはゆっくりしか動けません。なぜなら安全柵なしで使うのが前提なので、高速で動いていると危ないからです。

www.youtube.comこういった協働ロボットは人のサポートをしたり、サイクルタイムの要求がシビアではないところでの利用が主になります。

 

■ 超器用です

 産業用ロボットは組み立てだったり、溶接だったり、ミリ単位の仕事を要求されますので精度は高いです。

 

ただし!精度が高いのは「繰り返し精度」です。これは一度教示した位置を正確に再現するという意味です。

 

ロボットに座標値を入力してもその精度は保証されていません。あくまでも教示した位置を再現する目的で使います。

 

これを「ティーチングプレイバック」と呼びます。

 

 

■ クソでかいロボットから小さいのまでいる

 産業用ロボットが扱う商品は千差万別、大きなものを持ち上げたり、小さなものをちまちま扱ったりします。

 

大きなものを扱うには大きなモータが必要で、太いアームも必要になるのでロボット自体も大きくなります。

 

車一台を持ち上げようとするとガンダムみたいにでかいロボットが必要になります。

 

実物をみるとカッコいいですよ!

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小さいのはこんなのもいます。

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■ 特別教育を受けないと使えない

 実は産業用ロボットの特別教育というものを受けないと産業用ロボットは使えません。

 

これは労働安全衛生法で定められています。

 

大抵の場合はロボットメーカがお客さんに対してロボットスクールを開催しています。

 

でも安心してください。そんなに難しい講習ではありません。

 

数日受講すれば修了書もらえます。

 

ただし、ロボットスクールを受ければ産業用ロボットをマスターできると思ったら大間違いです。

 

最低限の操作と安全を学べるぐらいに思ってください。産業用ロボットの操作はかなり難しいです。

 

■ 超危険です

 上記で説明した通り、産業用ロボットは高速で動いたり大きなものを運んだりするのですごい怪力です。

 

どんなに鍛えた人でもワンパンで殺されます。

 

協働ロボットであればロボットに近づいて作業することも可能ですが、あくまで作業環境を含めたリスクアセスメント(ざっくりいうと、どんな危険があるか評価して対策を行うこと)を行うことが前提となっているので、協働ロボットだからといって安全を気にしなくていいという訳ではありません。

 

■ 丈夫です

 産業用ロボットはお遊びロボットではありません。プロです。

 

工場で長く働いてロボットに投資したお金がペイして初めて世の中の役に立ったといえるでしょう。

 

保証期間も長く設定されているものが多いです。

 

お客さんによっては20年以上前のロボットを現役で使っていたりします。(当然部品交換などは必要ですが)

 

ただし、最近は新規参入した産業用ロボットメーカも増えているので、すぐ壊れるやつもいたりしますが・・

 

 

 

目的

 近年ロボット業界の熱気が高まっている中、ビジネスとしてのロボット業界の実際を知りたいというニーズも増えているのではと思い、このブログを始めました。

 

 特に、ロボットの中でも産業用ロボットは実際のビジネスシーンで最も多くの価値を世の中に提供してきた業界だと思います。

 

ビジネスでロボットを扱う難しさや楽しさをお伝えすることで、さらなるロボット業界の発展につながり、より豊かなロボット社会が実現することを願っています。

 

具体的には次のようなテーマを書いていこうと考えています。

  • 産業用ロボットって他のロボットとなにがちがうの?
  • ロボット展では紹介されない産業用ロボットのあたりまえ機能
  • 産業用ロボットビジネスはここがつらい!
  • 産業用ロボットっておもしろい!
  • 産業用ロボットメーカーのお仕事